911 SC
クラッシックポルシェの踏み絵 911DAYS 2020/Spring vol.79
1974年から89年モデルまで作られた930のNAモデルは、3つの世代に分けられる。
一つは、74年から77年の2.7L.
もう一つは,78年から83年のSC.
最後が84年から89年のカレラ3.2L.
ここでは、930第二世代のSCの魅力を紹介しよう。
エンジンの回り方にオーラがある。
今振り返ってみると、ちょうど僕が免許取り立ての頃、ポルシェといえば911,911といえば930SCという時代だった。
それは、40年ほど前の話。
ここでは、そんな憧れの存在だった930SCの、そしてその後40年間いろいろなポルシェを乗り込んで経験値が上がった僕が、今だから感じるその魅力をお伝えしたいと考えている。
さて、1974年。この年は、アメリカの新規制に対応すべく誕生したのがGシリーズから始まる930ボディだった。
そこに搭載されるエンジンは、ベーシックモデルで大きく分類すると、排気量が2.7l→3.0l→3.4lへと変わっていった。
しかし、74年から77年までの初期930 Gシリーズの2.7LとKジェトロニックの組み合わせのエンジンは、ミッションへの対応などで全モデルよりも性能、軽快感が下がり不評だった。
その一方、そんな市販車の状況とは裏腹にレースの世界では934,935,956,962と続く黄金時代の幕開けの始まりと完全に一致する。
930SCはエンジンが3.0Lになり、Kジェトロにも改良が加えられた930中期期のモデルということになる。
この少し前には、RSが2.7Lから3.0Lに変更されたのと同時に、3.0Lのターボが登場している。
戦略的に設計されたであろうこの3.0Lエンジンを、レースモデルのそれと比較すればうちに秘めたる凄さがわかってくる。
930が誕生する前夜のGTマシン、73年911カレラRSRのエンジンは、3.0L(ボア95MMストローク70.4MM)だった。
76年934ターボのエンジンも、3.0L(95MM70.4MM.さらに常勝ポルシェの代名詞、962C(1987)に積まれた3.0Lエンジンも895MM70.4MM)だ。
そして、ロードカーの75年930ターボ3.0と930SCの3.0Lエンジンは実際に多くの部分が共通する。
この戦略的に到達した黄金比率の3.0Lエンジンは、個々の性能差は別にしてもエンジンの回り方のオーラが感じられる。
とても官能的なのだ。
電子制御のように思われがちなKジェトロだが、実際はほぼ機械式。それゆえ、個体の調子の差によって差が出やすいが、完全に調律された3.0Lエンジンの回転音とレスポンスは、今のフラット6と比べると格別だ。
これが930SCの最初の魅力だ。
ただ、当時ポルシェの販売が危機的状況の時代で、危うく911シリーズの最後のモデルとの声もあったが、これに関しては911が無くならなくてよかったと切に思う。とさておき。実際に走らせてみよう。
上手く走らせた時に得る達成感
930SCに久しぶりに乗り込んでみるとドライビングポジションもクラシック。着座位置が高く、ベストポジションを取るにはシートを近目にして背もたれを少し立ち気味に調整する必要がある。
後の930カレラ3.2とは明らかに違い、座り心地もややソフトで、普段乗りには快適と感じるところもあった。
3本スポークの太めのステアリングホイールも好印象。
実はこのステアリング、934のほか、パリダカで優勝した930SCRSも、パッドを外してそのまま使用していた。
ようは、ザ、ポルシェそのものなのだ。
この時代の911を運転することは、それ以降の911を運転するのは明らかな違いがある。
すべての915ミッション(ようはポルシェシンクロ)に共通することだが、走っている速度に合ったシフト操作をするには、
車との対話が必要とされる。
まずは、何も考えず走らせたらギクシャクすること請け負い。
なにせこの頃のエンジンはレスポンスがいい(回転落ちも早い)ものの、パワーがない分だけギアシフトも頻繁に繰り返さなけばいけない。ちなみに、日本仕様の930SCは、78年から82年までのモデル期間中、一貫して180psしかない。
美味しい回転域をキープし続けることには、的確なタイミングで選択しなければいけないのだ。
しかも、ギアオイルが温まるにつれてシフトフィーリングは変化するため、それに合わせた操作を常にドライバーが感じ行わなければいけない。
これらの一連の操作がうまく一本の線のように繋がると、なんの抵抗もなく、そうまるでボートを漕ぐように湯ムーズに進む。
なんとも言えない爽快さ。
この瞬間、911を運転した最初の達成感が味わえるはず。
昔のポルシェ乗りは、この達成感に魅了され、その完璧さを目指した。
この達成感が930SCまでしか味わえない、二番目の魅力だ。
また、930SCは930カレラ3.2以上に、捨内に騒音と路面の凹凸を伝えてくる。
もちろん、それ自体はいいものではない。
が、加速すると不快音とかドタバタとか、そのすべては後ろへ吹っ飛び、スピードが上がるほど嘘のように快楽に変化する。
アクセルに対するエンジンの回転の追従性も良く、踏み始めからエンジンは鋭く反応、ある程度のスピード域になると、コーナーに侵入するときのハンドルへの情報量も手応えになって明らかに増してくる。このダイレクト感は、今の車で滅多に感じることはないだろう。
さらに、930SCの車重は、930カレラ3.2より50kg軽く、1160kgしかない。
この軽量さと180psのバランスが930SCに軽快さを与え、ハンドリングの軽やかさにつながっている。
この身軽さが、3番目に感じる930の魅力。
930SCとはつまり、ボディの身軽さと180psのレスポンスのいい3.0Lエンジン、繊細で特徴的な915ミッションがほどよく調和された911ということ。これらの積み合わせを楽しいと思うかどうか。
それが、クラシックなポルシェを楽しめる人とそうでない人の踏み絵のような気がしてならない。