ポルシェがただのブランド物じゃない3つの理由。
ポルシェの操作の仕方について書かれた記事になります。
ポルシェが「ただのブランド物じゃない理由」と証明できるところはたくさんある。
が、レーシングドライバーの僕が、「走り」に関して一番に挙げたいのは「ペダル」だ。
ただし、今から話す内容は、空冷の床から生えているオルガンペダルに限るので、ご注意を。
空冷時代の911のペダルは、床から生えているので踏みにくいとかヒールアンドトーができないと言われてきた。そんなことはない。あのペダルは踏みにくくもないし、ヒールアンドトーもできる。というか、こちらのほうが、はるかに吊り下げペダルよりも理にかなっている。人間工学的に考えても人間の踵から先の動きとペダルの動きが同調するのはただしい。ペダルを戻すとき、足首の微調整で繊細に対応できるからだ。さらに、正確なドライビングを行うという意味からもこれは大正解。
イメージして欲しい。
自動車学校で習うブレーキングの仕方は、アクセルから右足をドッコイショと持ち上げ、おもむろにブレーキペダルを踏みつける。この時、当たり前だが、右の膝の裏はシート座面から離れてしまう。当然、身体はステアリングを持つ両手、二本とフットレストに置く左足の3点支持ため不安定な状態に陥る。高いGがかかった時に正確なドライビングを行うことは不可能だ。一方、911の場合(オルガンペダルの場合)、ブレーキング時に踵を床につけて行うことで、膝の裏をシート座面に押し当てたままにできる。両手、両足で踏ん張る4点支持の体勢だ。これで初めて身体をシートに固定でき、正確なドライビングが可能となる。
では、ヒールアンドトーはどうか。
これは、アクセルを踏む踵の位置からつま先だけをブレーキに向け、親指の付け根でペダルを踏みこみ、足の裏 右側でアクセルを煽る。正にオルガン式ペダルレイアウトでしかない、ドンピシャのセッティング。それを可能にする為に、アクセルペダルがあれほど長いのだ。アクセルとブレーキの段差がかなり付いているのも、アクセルを踏む踵の位置からつま先がブレーキに届きやすいようにあえて手前にせり出してあることにも気づく。
さらに、右足全体でブレーキを操作するよりも、足首で調整した法が良いメリットもある。それは、世界一のブレーキングシステムが伝えてくれる情報を、細かく足先でキャッチできることだ。これは、右足を浮かして大雑把にブレーキを踏みつけるのとは雲泥の差。細かいたくさんの情報を、より正確に敏感に足の裏に受け取ることができる。折角サーキットをそのまま走れるほど高性能なブレーキシステムでも、そこから得られるインフォメーションをドライバーがきっちりと把握できなければ宝の持ち腐れとなるのだ。
また、踵を床につけて行うペダル操作で、もっとも簡単に実践し効果を確認できるのがクラッチ、基本中の基本アイドリング発信だ。これを踵をつけた状態でこれを試みてほしい。普段よりも明らかにスムーズにそして正確にアイドリングからの発進ができるはずだ。念のために付け加えておくと。クラッチがつながったら、踵を上げて左足はフットレストに預けることを忘れずに。
と、書いているうちに紙幅がなくなってきた。
わかっていただけただろうか。
空冷時代のポルシェ911は、ペダルレイアウト1つとってもこだわりをもっていることを。
全てのパーツが、ドライバーが早く速く、正確に走らせれるよう設計され、製作されている。こんなスポーツカーが、名ばかりのブランド物であるはずがないではないか。ポルシェは本来持っている走りの性能(エンジンとかボディ剛性だけではなく、ここで紹介したようなペダルなどのデイテールも含めて)を正しく使ってこそ、より輝きを増す特別なブランド物なのだ。
(参考文献:911DAYS Vol.5 文:羽根幸浩)